【のしアワビが特別な縁起物になった理由とは?熨斗あわびvol.2】
海女さんが神様にのしアワビを献上
祝儀袋やのし紙の右上についている「のし」は、のしアワビ(干したアワビ)が起源となっています。
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かつては、実際にのしアワビが贈り物に添えられていたのだとか。高級品で縁起物として珍重されるのしアワビは、年に数回伊勢神宮にも奉納されています。
とはいえ、数ある食べ物の中で、なぜアワビが特別な縁起物とされたのでしょうか。
日本書紀によると、天照大神の命によって倭姫命(やまとひめのみこと)が伊勢に鎮座したのち、志摩半島の海女さんから贈られたアワビのおいしさに倭姫命が感動し、伊勢神宮への献上を求めたとされます。
このときに海女さんが「生のままでは腐ってしまう」とアワビを薄くのして、乾燥させたものを献上しました。そこからおよそ2000年にわたり、のしアワビは特別な縁起物として大切にされてきました。
三種の神器がきっかけで伊勢にご鎮座
ちなみに、倭姫命(やまとひめのみこと)が伊勢を訪れた理由は、三種の神器の一つ「八咫鏡(やたのかがみ)」を祀るためでした。
八咫鏡とは、「天岩戸」に隠れてしまった天照大神を岩戸から出す儀式で用いられた特別な鏡です。天照大神は孫の瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が天孫降臨する際に「この鏡を私だと思って、同じ殿で祀りなさい」と八咫鏡を授けます。こうして八咫鏡は地上に降り、天照大神のご神体として歴代の天皇に大切に祀られるようになります。
しかし崇神天皇(第10代天皇)の時代に疫病が大流行。崇神天皇は八咫鏡を、宮外のふさわしい場所にお祀りすることで世の乱れを収めようと考えました。
そこで、ふさわしい場所探しの命を受けたのが、皇女である豊鍬入姫命(とよすきいりひめのみこと)です。八咫鏡を祀る場所を見つける旅はたいそう時間がかかったため、その任は途中で倭姫命(やまとひめのみこと)にバトンタッチされます。
その後、第11代・垂仁(すいにん)天皇の時代に、八咫鏡は現在の伊勢の地にご鎮座となります。倭姫命は、そこでのしあわびに出会ったわけです。
日本には、「元伊勢」と呼ばれる神社がいくつかありますが、これは倭姫命が伊勢にご鎮座するまでに、一時的に留まったとされる場所。元伊勢を辿っていけば、倭姫命の旅路がいかに広範囲だったのかが伺えそうです。
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伊勢はアワビをはじめ、おいしい食べ物がたくさんある地域です。
各所を巡った末にご鎮座の地として伊勢を選んだのは、
ひょっとしたら神様がおいしいもの好きだったからかもしれませんね。
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堀田 尚宏(Hotta Naohiro)
八幡神社(岐阜県養老町)の神職さん。
2004年に阿智神社(岡山県倉敷市)に奉職以来、20年にわたり神職を務める。
日本国外で最古の歴史を持つハワイ島の『ヒロ大神宮』の7代目宮司。現在は神職と兼任して、実家が経営する業務用串カツメーカー『オグラフーヅ』の専務も務める二刀流。
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■谷口松雄堂ブログ編集担当より
神と紙にまつわるお話を、神職の方にお話いただけました。神社やお寺に参拝へ行くときに、知っておくとより楽しいお話をシリーズでお伝えします。
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